大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)62号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は、末尾に添えた書面記載の通りであつて、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

上告理由第一、二点について。

論旨は、上告人は本件訴訟が原審に繋続中、白河簡易裁判所に調停を申立てると共に、本件訴訟手続の中止を原審に申立てた。しかるに原審は、この申立について審理をせず中止決定をしないで、訴訟事件の審理を続行して判決をしたのは、調停法令に違反するのみならず審理不尽並びに理由不備の違法があるというのである。

上告人が原審裁判所に対し「本件につき白河簡易裁判所に調停を申立てたから訴訟手続を中止され度き」旨を申立てたことは、記録上明らかである。ただ、右の調停の申立がいかなる法律に従つて申立てられたかは、上告人の主張からも記録によつても明らかでないが、本件訴訟が不法行為に因る損害賠償請求事件であるところから見ると、右の申立は金銭債務臨時調停法第二条第三項か戦時民事特別法第一四条かのいずれかに基くものでなければならない。ところが、これら両法律による調停の申立があつた場合には、受訴裁判所は訴訟手続を中止することを得るにすぎないのであつて、必ずその手続を中止しなければならないものではない。(金銭債務臨時調停法第六条、戦時民事特別法第一八条参照)。すなわち、右いずれの場合であつても、調停の申立が受理された事件について訴訟手続を中止するかどうかは、受訴裁判所の自由裁量に委ねられているのである。それ故、当事者が調停の申立てられたことを理由として訴訟手続の中止を求める行為は、ただ裁判所の職権発動を促すにすぎないのであつて、当事者は訴訟手続の中止を求める申立権を持つているわけではないのである。

されば、原審が所論の訴訟手続中止の申立について特に裁判をしないで訴訟事件につき判決をしたからといつて所論のような違法があるものではないから論旨は理由がない。

よつて、本件上告は理由のないものと認め、民訴法第四〇一条第九五条第八九条を適用して主文の通り判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 島 保 裁判官 井上登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例